2008年 12月 28日
痕跡としての2008年ベスト |
【映画】
『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)
『接吻』(万田邦敏監督)
『コロッサル・ユース』(ペドロ・コスタ監督)
『チェチェンへ ーアレクサンドラの旅ー』(アレクサンドル・ソクーロフ監督)
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』(侯孝賢監督)
次点
『コッポラの胡蝶の夢』(フランシス・F・コッポラ監督)
『TOKYO!』(レオス・カラックス監督のみ)
総評
『ランジェ公爵夫人』(ジャック・リヴェット監督)にはじまり、あれもこれも見逃してしまったとはいえ、少なくとも上記の作品たちがあったということだけで2008年が佳作に恵まれた年だったという証明にはなるかと思う。
しかしながら、当然ランクインするであろう「あの映画」が入っていないのは、怠惰にも私が観ていないという理由からではなく、「あの映画」をめぐる劣悪な環境に冷ややかな一瞥をくれてやりたいというささやかな抵抗である。
「あの映画」とは、〈内容〉において「考えさせられる」映画が称揚される昨今の映画産業にあって、いささか不当な扱いを受けていると言わざるを得ない、〈形式〉において「考えさせられる」映画のことであり、そのタイトルを『ジャン・ブリカールの道程』(ストローブ=ユイレ監督)という。
この作品が、東京の片隅で、しかもたった三度しか上映されてないという状況は、2008年にとって実に不幸なことだ。
蓮實重彦氏やセルジュ・トゥビアナ氏のご尽力で開催された「フランス映画の秘宝」で目にすることのできたジャック・ドワイヨン監督の『誰でもかまわない』(2008)もランクに名を連ねて然るべき作品ではあるが、正規の公開ではないということで対象外とした。一刻も早い公開が待たれる。
【小説】
岡田利規『楽観的な方のケース』(新潮6月号)
多和田葉子『使者』(新潮1月号)
青山真治『見返りキメラ』(新潮3月号)
青木淳悟『このあいだ東京でね』(新潮9月号)
円城塔『烏有此譚』(群像5月号)
次点
田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』(文学界10月号)
舞城王太郎『イキルキス』(群像7月号)
総評
驚かされたという意味では岡田利規、多和田葉子、青木淳悟。全体的に文芸誌は小粒だったように思う。
『切れた鎖』などという、タイトルも内容もつまらない作品で三島賞を授賞した田中慎弥だが、『神様のいない日本シリーズ』はなかなかいい作品だった。芥川賞への盤石の体制(?)ができつつあるらしいが、授賞したとしても不思議ではない。
ランクには入っていないが、萩田洋文『一握の砂漠』(テルテルポーズ1号)は素晴らしかった。同氏の『センチメンタル温泉』(早稲田文学1号)も、一時期の筒井康隆を彷彿とさせる見事な仕掛けだった。
単行本はというと、今年の夏からの怒濤の大作ラッシュは忘れ難い。
平野啓一郎『決壊』
舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』
町田康『宿屋めぐり』
古川日出男『聖家族』
伊坂幸太郎『モダンタイムス』
桜庭一樹『ファミリー・ポートレート』
『モダンタイムス』と『ファミリー・ポートレート』は未読のため、残る四作で順位をつけるとすれば以下の通り。
『ディスコ探偵水曜日』>『聖家族』>『宿屋めぐり』>『決壊』
【演劇】
小指値(快快)『霊感少女ヒドミ』
チェルフィッチュ『フリータイム』
大橋可也&ダンサーズ『BLACK SWAN』
サンプル『家族の肖像』
劇団本谷有希子『幸せ最高ありがとうマジで!』
次点
五反田団『すてるたび』
総評
観劇歴の蓄積の浅さゆえ、どこまで正当な評価ができているかは自信がない。しかし、小劇場では日々とんでもない実験が繰り広げられているという手触りだけは感じることができた。
【ライブ】
Jim O'rourke(TaicoClub 6/7)
吉増剛造+大友良英+吉田アミ(新宿ピットイン 6/3)
相対性理論(渋谷o-nest 10/8)
渋谷慶一郎(sonorium 9/11)
灰野敬二+トニー・コンラッド(SuperDelux 9/17)
次点
青山真治+中原昌也(渋谷o-nest 7/25)
池田亮司(恵比寿ガーデンホール 3/16)
スカタライツ(朝霧JAM 10/4)
総評
CISCO倒産やYELLOW閉店など、自分には直接的な影響はないものの、なんとも不景気な印象が残った2008年音楽事情。
目新しい作品も特になく、今年の収穫は相対性理論に尽きる。(なんと、新作『地獄先生』のPVはあの冨永昌敬監督だ!)
来年のことを言うとアレがアレしますが、今年はドラびでおとの対バンも果たし、着実にファンを獲得しつつある空間現代、2009年はきますよ。と予言めいたことを言っておきます。
吉増+大友+吉田は、音楽という範疇を軽々飛び越え、もはや如何とも形容しがたい、まさに〈出来事〉といか言いようの無いパフォーマンスであり、記憶する、というよりもむしろトラウマとして残るような、いみじくも赤塚不二夫が『天才バカボン』で披露した「忘れようとしても思い出せない」というギャグが最も適切に言い表しているという事態。
同様に、ライブなのかパフォーマンスなんか判然としないため、どこにもランクインさせることはできなかったが、12/23に『HARAJUKU PERFORMANCE PLUS』で観た山川冬樹+飴屋法水も挙げておきたい。
『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)
『接吻』(万田邦敏監督)
『コロッサル・ユース』(ペドロ・コスタ監督)
『チェチェンへ ーアレクサンドラの旅ー』(アレクサンドル・ソクーロフ監督)
『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』(侯孝賢監督)
次点
『コッポラの胡蝶の夢』(フランシス・F・コッポラ監督)
『TOKYO!』(レオス・カラックス監督のみ)
総評
『ランジェ公爵夫人』(ジャック・リヴェット監督)にはじまり、あれもこれも見逃してしまったとはいえ、少なくとも上記の作品たちがあったということだけで2008年が佳作に恵まれた年だったという証明にはなるかと思う。
しかしながら、当然ランクインするであろう「あの映画」が入っていないのは、怠惰にも私が観ていないという理由からではなく、「あの映画」をめぐる劣悪な環境に冷ややかな一瞥をくれてやりたいというささやかな抵抗である。
「あの映画」とは、〈内容〉において「考えさせられる」映画が称揚される昨今の映画産業にあって、いささか不当な扱いを受けていると言わざるを得ない、〈形式〉において「考えさせられる」映画のことであり、そのタイトルを『ジャン・ブリカールの道程』(ストローブ=ユイレ監督)という。
この作品が、東京の片隅で、しかもたった三度しか上映されてないという状況は、2008年にとって実に不幸なことだ。
蓮實重彦氏やセルジュ・トゥビアナ氏のご尽力で開催された「フランス映画の秘宝」で目にすることのできたジャック・ドワイヨン監督の『誰でもかまわない』(2008)もランクに名を連ねて然るべき作品ではあるが、正規の公開ではないということで対象外とした。一刻も早い公開が待たれる。
【小説】
岡田利規『楽観的な方のケース』(新潮6月号)
多和田葉子『使者』(新潮1月号)
青山真治『見返りキメラ』(新潮3月号)
青木淳悟『このあいだ東京でね』(新潮9月号)
円城塔『烏有此譚』(群像5月号)
次点
田中慎弥『神様のいない日本シリーズ』(文学界10月号)
舞城王太郎『イキルキス』(群像7月号)
総評
驚かされたという意味では岡田利規、多和田葉子、青木淳悟。全体的に文芸誌は小粒だったように思う。
『切れた鎖』などという、タイトルも内容もつまらない作品で三島賞を授賞した田中慎弥だが、『神様のいない日本シリーズ』はなかなかいい作品だった。芥川賞への盤石の体制(?)ができつつあるらしいが、授賞したとしても不思議ではない。
ランクには入っていないが、萩田洋文『一握の砂漠』(テルテルポーズ1号)は素晴らしかった。同氏の『センチメンタル温泉』(早稲田文学1号)も、一時期の筒井康隆を彷彿とさせる見事な仕掛けだった。
単行本はというと、今年の夏からの怒濤の大作ラッシュは忘れ難い。
平野啓一郎『決壊』
舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』
町田康『宿屋めぐり』
古川日出男『聖家族』
伊坂幸太郎『モダンタイムス』
桜庭一樹『ファミリー・ポートレート』
『モダンタイムス』と『ファミリー・ポートレート』は未読のため、残る四作で順位をつけるとすれば以下の通り。
『ディスコ探偵水曜日』>『聖家族』>『宿屋めぐり』>『決壊』
【演劇】
小指値(快快)『霊感少女ヒドミ』
チェルフィッチュ『フリータイム』
大橋可也&ダンサーズ『BLACK SWAN』
サンプル『家族の肖像』
劇団本谷有希子『幸せ最高ありがとうマジで!』
次点
五反田団『すてるたび』
総評
観劇歴の蓄積の浅さゆえ、どこまで正当な評価ができているかは自信がない。しかし、小劇場では日々とんでもない実験が繰り広げられているという手触りだけは感じることができた。
【ライブ】
Jim O'rourke(TaicoClub 6/7)
吉増剛造+大友良英+吉田アミ(新宿ピットイン 6/3)
相対性理論(渋谷o-nest 10/8)
渋谷慶一郎(sonorium 9/11)
灰野敬二+トニー・コンラッド(SuperDelux 9/17)
次点
青山真治+中原昌也(渋谷o-nest 7/25)
池田亮司(恵比寿ガーデンホール 3/16)
スカタライツ(朝霧JAM 10/4)
総評
CISCO倒産やYELLOW閉店など、自分には直接的な影響はないものの、なんとも不景気な印象が残った2008年音楽事情。
目新しい作品も特になく、今年の収穫は相対性理論に尽きる。(なんと、新作『地獄先生』のPVはあの冨永昌敬監督だ!)
来年のことを言うとアレがアレしますが、今年はドラびでおとの対バンも果たし、着実にファンを獲得しつつある空間現代、2009年はきますよ。と予言めいたことを言っておきます。
吉増+大友+吉田は、音楽という範疇を軽々飛び越え、もはや如何とも形容しがたい、まさに〈出来事〉といか言いようの無いパフォーマンスであり、記憶する、というよりもむしろトラウマとして残るような、いみじくも赤塚不二夫が『天才バカボン』で披露した「忘れようとしても思い出せない」というギャグが最も適切に言い表しているという事態。
同様に、ライブなのかパフォーマンスなんか判然としないため、どこにもランクインさせることはできなかったが、12/23に『HARAJUKU PERFORMANCE PLUS』で観た山川冬樹+飴屋法水も挙げておきたい。
by sound-and-vision
| 2008-12-28 11:51